
- 平成18年1月1日・通巻第105号
幸せをもたらす年神さま
新年明けましておめでとうございます。
平成十八年丙戌(ひのえいぬ)歳の新春を迎え、皇室の弥栄と聖寿の万歳を寿ぎ奉り、ご崇敬皆様のご平安をお祈りいたします。
初詣には全国の神社や寺院へ、大勢の皆さまがお越しになりますが、家で正月行事をなさるご家庭はどのくらいありますでしょうか。
暮れに親や兄弟と一緒に迎春の準備を手伝ったことのある方は、意外と多いのではないかと思います。家族総出の大掃除に始まり、神棚やお竈(くど)さんを掃除して榊を供え、お鏡餅の下に敷くウラジロを山へ採りに行き、総出で餅つきをしてお鏡餅を作り、玄関先には門松をたてて注連を飾り、床の間に迎春の掛け軸をしつらえ、お鏡餅や御神酒などのお供えを、ご先祖さま、神棚、床の間に供え、新しいお伊勢さまや氏神さまのお札を神棚に納め、お正月を迎えます。
年が改まれば心も気持ちも新たにしたい、そして新しい気持ちで新年を迎えたいと言う想いは、日本人でなくとも抱くことでありましょう。
ところで、この祖先から伝えられてきた正月行事には、一体どのような意味があるのでしょうか。
実はこれらの正月行事は、年神(としがみ)さまを我が家へお迎えするという、日本の伝統的な行事なのです。もちろん、地方によって形の相違はありますが、年神さまをお迎えすることには変わりはありません。
そしてこの神様は、正月に訪れてきて新しい年をもたらして下さる、私たちに幸せをもたらして下さるのです。
門松は年神さまに来て頂くための依代(よりしろ)、目印であり、注連飾りはここから先に年神さまがお見えになるという結界、お鏡餅は年神さまから頂くお年玉とも考えられます。
そして年神さまは豊かな稔りをもたらす神様でもあるのです。年(とし)は稲(いね)のことでもあり、稔りのこと、命を育む力のことでもあります。「い・ね」は命の根っこ。年神さまは私たちに年を一つ下さる、新しい命を与えて下さる神様なのですね。正月には歳神さまをお迎えし、おもてなしをして、新しい命を一つ頂くわけです。これが伝統的な年齢の数え方、数え歳のもとで、日本人は正月に年神さまからイノチ・「年」を一つ頂いて年齢を重ねていくと考えたのです。ご先祖さまや、神様から頂いた命なのですから大切にしないわけにはいきませんね。
これらの日本の伝統的な正月行事は、時代の変化と共に次第に忘れ去られようとしています。人も自分も命は大切だからと教わっても、今の多くの人たちは、なぜ命が大切なのかわかっていません。日本人は年神さまをお迎えする正月行事、ご先祖をお迎えするお盆の行事を通して、命を大切に子々孫々に伝えていこうとしていたのですね。
学校でもどこでも教えなくなってしまった、日本人の伝統行事を、今一度見つめ直し、語り伝えていかなければならないと思います。
- 平成17年10月1日・通巻第104号
語り舞台「日本神話への誘い」岩津天満宮公演の実現
「私たちが子どものころは、神話や民話って生活の中に自然にとけ込んでいたものだった。そういった日本の財産がどんどん失われていくのは寂しいよねえ」・・・・・数年前に浅野温子がふと発したこの言葉が、全ての始まりでした。
子どものころ本の大好きな少女は、学校や近所の図書館に行っては児童書を手に取り、「因幡の白うさぎ」や「八俣のおろち」「海彦山彦幸彦」などの物語を夢中で読みあさっていました。その世界はスリル満点の冒険スペクタクルや、ロマンティックファンタジーが一杯で、ハラハラドキドキ少女の心をつかんではなしませんでした。
そういう物語を通して、かつての多くの子どもたちは、愛や憎しみ、苦悩や葛藤といった人間の心理、親子の絆や友情の尊さ、社会のルールや道徳心まで自然に教えられていたのです。
今、世の中はうんざりするほどの犯罪が溢れ、歪んだ道徳観や倫理観が横行しています。こどもたちまでが殺伐とした空気にさらされ、心を傷めています。こんな時代に、子どもたちの心に豊かでスケールの大きな物語を語りかけ、伝えていくことは出来ないものだろうか。
そう思ったとき、浅野温子の脳裏に蘇ったのが、かつて読みふけった日本の神話の数々でした。再びそれらの物語を辿ってみようと「古事記」を手に取り目を通すと、子どものころ読んだ児童書には載っていない物語がたくさんあり、それが彼女に新しい感動を与えたのです。
「この物語を自分の手で、出来るだけ多くの人々に語り伝えたい」
この時、女優・浅野温子の中に「日本神話を一人語りする舞台公演」という構想が生まれました。
彼女が子どもの頃に読んだり聞いたりした神話や伝説を、今の子供たちが全く知らなかったり聞かなかったりする現実を知り、これで日本は良いのかとの思いを強くしたことが、語り舞台公演を実現する大きな原動力になったのです。
以来、折あるごとにその思いを打ち明け、その思いに共感する人が次第に増えてきました。当然神社関係者は、日本神話を語り継いで行く必要性を十分認識しておりました。そこで、語り舞台のステージとして境内を提供しようと申し出る神社が表れ、今回の東海公演に繋がって来たのです。
当初は、全国の著名神社で公演を続けてきましたので、当然のことながら岩津天満宮でお引き受けすることになるとは全く考えておりませんでした。しかし様々な御縁をいただき、去る九月十二日(月)に岩津天満宮公演を実現することが出来たのです。
公演実現に向けて、本当に多くの皆さんが力を貸して下さいました。当日はお天気にも恵まれ、下弦の月を仰ぎながら、虫の音もさらに趣を添えて幽玄の情景を醸しだし、女優浅野温子の素晴らしい語りを、一層感動あるものにしてくれました。規模は小さくとも、きらりと光る岩津天満宮公演に、境内一杯の皆様も、十分満足してお帰りいただけたことと思います。
お世話いただいた関係各位、多くの皆様に、心から厚く御礼申し上げます。
- 平成17年7月1日・通巻第103号
日本神話への誘い
平成二十五年に執り行われます第六十二回神宮式年遷宮の最初の諸儀式が始まり、特に重要な御杣始祭が六月三日に、そして切り出された用材の奉搬行事であります御神木奉迎送の愛知県内での行事が、去る六月六日から八日にかけ県内十五ヶ所で沿道の熱烈な歓迎を受け、無事執り行われました。
神宮の式年遷宮は、千三百年の歴史を経て伝えられてきた、まさに伝世の儀式であると申せます。この三日間、二十年に一度の御遷宮最初の重儀、御神木奉迎送に供奉する幸運に恵まれ、各所で御奉仕される人々の熱誠を目の当たりにいたしました。千三百年変わらぬ想いを持ち続け、心からお迎えされる地元の人々の、心の底から湧き上がる神宮に対する崇敬の気持ちの表れなのでありましょう。
遷宮の御儀が始められた千三百年以上前に遡ると、そこから先は神話の世界の入り口です。その先は現代に生きる私どもでは、想像も出来ない世界でありますが、世界の殆どの民俗はその国の生い立ちを著した神話を持ち、今もしっかりと受け継いでいます。それぞれの国の神話は、その国や民族の生い立ち・志向をドラマティックに、ロマンあふれる口調で謳い上げており、そしてそこには祖先の想いや、遠い子孫へのメッセージが詰め込まれています。
これら神話を持つ世界の国々では、学校で子供たちに神話を教えていると聞いています。神話を通してその国の民としての、生き方やルールを教え、国民としての基を形成させているのです。
ってわが国ではどうでしょうか。神話は軍国主義の復活に繋がるとか、政教分離に反するとか、訳の分からない謂われなき理由によって、学校の教育の場では一切封印されてしまいました。日本人の日本人としてのあり方など、今に生きる私どもにとって学ぶべきところは沢山あると思います。
そんな想いを抱いて、日本神話の元になっている「古事記」に題材を取り、神話を語り続けている女優の浅野温子さんが、来る九月十二日の夕刻から岩津天満宮の境内で、「浅野温子語り舞台~日本神話への誘い」の公演を行うことになりました。
彼女は、幼い頃に読み聞いた神話や説話が現在は失われてしまっているので、きちんと次の世代に継承しなければならないと感じ、小さい頃に遊んでいた一番自分の子供の時に親しんだ場所で演りたいと、神社の境内で語るというスタイルでこの企画を立ち上げたそうです。さあ、ご一緒に先祖が残してくれたメッセージを感じ取ってみませんか。。
彼女の熱い思いの詰まった公演が、見事に花開く岩津の山で。
